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プロジェクトインタビュー:場所?感覚?メディア

IAMASの教育の特色でもある「プロジェクト」は、多分野の教員によるチームティーチング、専門的かつ総合的な知識と技術が習得できる独自のカリキュラムとして位置づけられています。インタビューを通じて、プロジェクトにおけるテーマ設定、その背景にある研究領域および文脈に加え、実際に専門の異なる教員や学生間の協働がどのように行われ、そこからどのような成果を期待しているのかを各教員が語ります。

前林明次教授、小林孝浩教授

金生山でのフィールドワーク

- プロジェクトのテーマと背景について聞かせてください。

前林 ある場所を訪れ、そこで感じ、考える。それを「メディア」を通して変換し共有することで、新たな「場所」が生まれていく。そして、それが私たちの「感覚」にも変化をもたらす。「場所」「感覚」「メディア」の関係性は、どのようなコンテクストにおいて、どのようなメディアを使って思考し、表現するかによって常に動き続けています。
このプロジェクトでは、フィールドワークとして金生山や養老天命反転地に出かけたり、歴史のある谷汲などの場所を訪れ、映像や音響などの感覚的なメディア(センサリー?メディア)によって多角的に捉え直し、新たな芸術表現の可能性を探ることをテーマにしています。
例えば、金生山はコンクリートの材料である石灰岩の採掘場として社会の物質的基盤となってきました。一方で、そこで採掘される化石は地球環境の変遷に関する貴重な資料となっています。加えて、明星輪寺の内部に祀られる石灰質の巨岩は信仰の対象としても長い間人々の生活を支えてきました。このように、さまざま視点によって「もの性」が変化する場所のフィールドワークやその土地に受け継がれた自然や文化をリサーチすることを通して、参加メンバーそれぞれの「体験」について議論し、制作のヒントを得ることを目指しています。

小林 「場所?感覚?メディア」というテーマは一見すると私の専門である工学とは距離があるように感じられるかもしれません。しかし、このプロジェクトは『自然なきエコロジー』(ティモシー?モートン)を参照にしていることもあって、キーワードに「身体が土に触れること」や「生命」「技術」が含まれています。「生存」や「サバイバル」を含めた現代社会の状況を俯瞰的に見渡すことによって、これまで実践してきた「農地を工学的な視点で活用する」という私自身の研究の可能性を広げられるのではないかと期待しています。
これまでに、ヤーコン畑の草取りやトマトの収穫作業を体験してもらったうえで、「生存」や「技術がもたらす大きな変革」という視点で講義を行いました。「技術が私たちをどんな未来に連れていくのか」という難しいテーマを、土に触れることを通じて各自が考えるきっかけになったのではという手応えがありますし、こういったことを共に考えるうえでの課題も確認することができました。

作業実習の様子

- 学生はどのように関わっているのでしょうか?

前林 このプロジェクトは今年が3年目になるのですが、1、2年目は視覚?聴覚文化論、映像人類学、エコクリティシズムなど、様々な領域にまたがる芸術表現を鑑賞しながら、関連書籍を輪読することを通して、概念的な整理をおこないました。その上で、具体的な場所をテーマに、概念と体験の間を埋めるようなフィールドワークや展示を行いました。今年度は作品鑑賞や輪読に加えて、学生がこのプロジェクトのテーマに合わせて独自に発想した作品制作と展示を行いました。

- どのような作品を制作したのでしょうか?

前林 一つは、湧水などのきれいな水にしか棲まない岐阜県の天然記念物?ハリヨの生態を知るというVR作品です。鑑賞者はVRゴーグルをつけて、車輪のついたデスクチェアを操作しながら、ハリヨになりきって木片などを拾って好きな場所に巣を作ります。実際に加賀野名水公園で展示をしたのですが、聴覚や皮膚感覚としては水の流れる音や寒さなどを「リアル」に体感しながら、視覚的にはバーチャルな池の中の映像を見るという、まさに「場所?感覚?メディア」的な発想の作品でした。
二つ目は、IAMASの校舎のガラス窓からの風景をあらかじめ24時間撮影し、逆再生した映像を、実際の風景に重ねて投影するという作品でした。実際の窓の向こうの風景は日が暮れて暗くなっていくのですが、その上に投影される映像は夜明けの陽が射してくる時間帯の映像で、日の出と日の入りの「間」の微妙な光の重なりを体験する作品です。
もう一つは、100円ショップで販売されている熨斗(のし)を分解して、そこに新聞や雑誌から切り取ってきた言葉を入れて新たな熨斗を制作する架空の人物の、架空の作業現場を再現するという作品でした。普段はあまり日の当たらない手仕事への興味から着想したそうです。
「場所?感覚?メディア」というテーマは広範で、学生によって捉え方や関わり方が変わってきます。同じ場所を訪れても、各自の興味やバックグラウンドによって感じ方は異なります。それでも、それぞれが体験によって得られたものを、自分の制作を考えるスタート地点にしているように思います。
現在在学中の学生の多くは、大学時代をコロナ禍として過ごしてきたと思いますが、だからこそ、もう一度「場所の体験」から制作を始めることは重要なのではないかと考えています。私自身も数年前に訪れた場所に再度行ってみると、全く別の印象をもつことがあります。どんな場所も、新たな視点や状況の中で見れば、新たな「体験」になる。それがフィールドワークの面白さだと思います。


学生作品展示

小林 技術が劇的に進化を遂げているので、場所の概念すら変えてしまっています。AR/VRはわかりやすい事例ですね。さらに生成AIを中心とした情報技術は生活基盤のあらゆる最適化を促し、医療技術にも大きな影響を与えつつあります。例えば、寿命を延ばす医療技術の進化が老化する速度を上回るという「寿命脱出速度」が話題になっていますが、このプロジェクトを通して、これからの技術革新によって私たちが生きる場所や身体がどのように変化していくか、一緒に考えられればと思います。

 
 
インタビュー収録:2025年2月
※『IAMAS Interviews 05』のプロジェクトインタビュー2024に掲載された内容を転載しています。